溶接作業は、重工業には欠かせない加工技術の一つです。FAの導入が進んでいる今、溶接を手作業ではなくロボットで自動化する現場が増えています。
溶接ロボットは、組み込まれたプログラムに従って動く自動溶接機。すべて計算された動きで、安定した溶接作業を可能にします。
これまで、溶接作業は手作業でおこなわれてきましたが、作業する人によって仕上がりや質にバラつきが見られたり、刺激的な光や有害な煙で健康被害も心配されていました。溶接ロボットの登場は、そうした問題を一気に解消しています。
溶接ロボットは、スピーディーで安定的、作業場所を選ばないといったメリットがあります。プログラム通りに無駄なく動き、溶接漏れなどもなく、均一な作業で安定した品質が期待できます。
また、溶接作業は危険で汚れやすく、体力的にもきつい仕事。しかも、溶接で発生するヒュームは、肺の機能を低下させてしまうといった危険性も。ロボットでは、こうした不安もありません。
溶接ロボットは、スポット溶接やTIG溶接、YAG溶接などさまざまな溶接方法があり対応範囲も広くなっています。ただ、溶接面は直線もしくは直線に近い曲線での対応と、複雑な面の溶接は厳しいといった一定の制限があります。また、向きも下・水平・横が中心で、上向きは溶接金属が流れることからも難しくなっています。
溶接ロボットのような産業用ロボットは、取り扱いの方法を誤れば大きなトラブルへつながるリスクがあり、作業担当者に対しても十分なスキルを学んで資格を取得することが法律によって義務づけられています。
専門知識や技術の取得は「特別教育」で習得することになっていますが、実際に特別教育を開講している機関を選択する際は、法令に従った適正な受講内容になっているか確認することも欠かせません。
特別教育は「教示」と「検査」という2つの内容で大別されており、それぞれの作業員が担当する作業の内容によって、受講すべき内容が異なることにも注意しましょう。
産業用ロボットの使用に関して「教示」とは「ティーチング」と呼ばれる作業に当たります。
ティーチングとは、例えばロボットのアームが動く順番や作業の位置、溶接を行うスピードといった各種条件を設定して、全ての動作が正常に動作しているか確認する作業を指します。
ティーチングは溶接ロボットの近くで行う場合もあり、ロボットと作業担当者の接触事故が起こりやすいといったリスクも重要です。
教示担当者は特別教育を受講し、資格を取得しなければなりません。
産業用ロボットにおける「検査」とは、例えば機械の修理やロボットの調整、またそれらの結果が適正に完了しているかどうか確認する作業などの総称です。
溶接ロボットの検査を行う場合、安全衛生規則によって、原則としてロボットを停止させた状態で作業を行うように定められています。しかし、稼働率や生産性などを考慮すると現実的にはロボットを動かしたまま検査をしなければならないケースもあり、検査作業の担当者も特別教育を受講して資格を取得しなければなりません。
また、実際の作業時は必要に応じて教示担当者と連携し、安全に配慮することが大切です。
教示や検査の特別教育を受講できる機関や場所は日本全国にあります。例えば、各都道府県にある労働基準協会連合会やJISHA(中央労働災害防止協会)において、定期的に特別教育が開講されています。
基本的に、どの受講場所でも同じ内容が受講できるとされていますが、自分が目的とする作業に対して、開講されている科目や所要時間が法令と照らし合わせて正しいかどうか、必ず事前にチェックしておきましょう。
その他、ロボットメーカーが特別教育を開講することもあります。
ティーチングとは、目的や条件に合わせて溶接ロボットへ一連の作業を記憶させる工程です。特に溶接ロボットを活用して自動溶接を実現する上で、ティーチング作業を適切に行うことは必要不可欠です。
手溶接や半自動溶接など、作業員が主体となって溶接作業を行い、ロボットや機械がそれをサポートする場合、作業員が溶接の方法や機器の取り扱い手順などを選択・調整しながら作業できるかも知れません。
しかし自動溶接の場合、最初に設定した条件にもとづいてロボットが稼働するため、ティーチング作業に不備があれば不良品が量産されたり、重大な事故へつながったりといったリスクが増大します。
ティーチングにはロボットを動かしながら行う「オンラインティーチング」と、3DCADなどを使ってロボットを停止させた状態で行う「オフラインティーチング」があります。
リモコンなどで溶接ロボットを操作しながらオンラインティーチングを行う場合、実際に溶接作業を行わせて、一連の動作をセンサなどで検知することが必要です。
そして、センサで検知した動作をプログラムとしてデータ化し、再現可能な動作としてロボットへ登録、再生(ティーチングプレイバック)させることで、一連の作業を自動化することができます。
その他、非接触センサを活用して、さらに高精度な溶接を目指すこともあるでしょう。
接触式センサとは、文字通りプローブやワイヤといった部位が対象へ接触することで各種データを収集する検知方法です。
接触式センサには「接触プローブセンサ」と「ワイヤタッチセンサ」があり、それぞれの部品を電極やトーチなどに取り付けた上で、ライン搬送されてくる母材へ接触させて溶接位置を調整・決定します。
接触プローブセンサではトーチと一体化したプローブを母材へ当てて、溶接線をライニングします。一方、ワイヤタッチセンサはワイヤ(溶加材)に微弱電流を通して母材へ接触させ、両者の位置関係を検知するといった仕組みです。
非接触センサとは、センサが直接に母材へ触れることなく溶接部位の位置調整などを検知する方法です。溶接ロボットにおける非接触センサには「アークセンサ」と「レーザー変位計」が利用されやすくなっています。
アークセンサは、アーク溶接において溶接電流やアーク電圧の変化を検知しながら、それぞれに応じてトーチ位置の制御を行います。
レーザー変位計はレーザー装置と光センサを活用し、母材へ照射したレーザーによって詳細な情報を収集するシステムです。
アークセンサとレーザー変位計にはそれぞれコスト面や精度面でメリット・デメリットがあり、適した方法を選択しましょう。
省人化・効率化を叶える
溶接ロボットの導入に
おすすめの会社は?
溶接方法の中でも定番の、ほぼすべての金属の接続が可能なアーク溶接。人の手でやるには危険すぎる現場を改善するため、アーク溶接ロボットとして導入する企業が増えています。鉄骨フレームや建設機械、自動車、鉄道車両、航空機、船舶とさまざまな用途での溶接に使われています。
車や電車などでつかう金属を接合する際に使われるスポット溶接ロボット。電気抵抗を利用した熱で溶接することからも、抵抗スポット溶接とも呼ばれています。
スポット溶接ロボットは工場用の大型から一般向けの小型までそろっており、初心者でも扱いやすい溶接ロボットです。
溶接ロボットによる自動溶接には、主にガスシールドアーク溶接が使われています。接合部に不活性ガスを吹き付けながら接合する方法で、接合部が変色したり錆が発生するのを予防します。そのアーク溶接で定番と言えば、MAG溶接・MIG溶接・TIG溶接です。
溶接ロボットに動作プログラムを覚えさせて、一連の作業工程を効率的に進められるようにするティーチング。ティーチングは特別教育を受けた資格保有者・ティーチングマンしかできません。
ただ、近年の産業用ロボットへの需要の高さからもティーチングマンが不足状態。効率的にティーチングができる技術の開発・導入が進んでいます。
産業用ロボットは会社の固定資産になるので、その導入には毎年の減価償却が必要になります。減価償却で大事になるのが耐用年数。耐用年数に応じた期間に分けて計上、もしくは一定の割合で償却していきます。
溶接ロボットや関連システムの効果を適切に発揮させるためには、導入前にきちんと溶接ロボット導入のメリット・デメリットについて把握しておかなければなりません。
溶接ロボットの導入によって得られるメリットや注意すべきデメリットを詳しくまとめていますので、自社のニーズや環境と照らし合わせて検討しましょう。
溶接ロボットは様々な導入メリットを期待できるシステムですが、それぞれのメリットを正しく追求し活用するには解決すべき課題や注意点も少なくありません。そのため、まずは溶接ロボットの導入や運用に関して懸念されるリスクや問題点、注意事項などをきちんと把握し、どのような課題があってどう解決すべきか検討しておきましょう。
溶接ロボットなど産業用ロボットの導入には初期コストが発生しますが、国や地方自治体が実施している制度の中には、溶接ロボットの導入に対して補助金が支払われるようなものもあります。溶接ロボットの導入に活用できる補助金はぜひ活用していきたいものであり、どのようなポイントに注意すべきか事前に把握しておきましょう。
溶接ロボットを導入するためには本体費用だけでなく、関連装置や周辺機器、システムインテグレーターの費用なども発生します。本体だけで200万円ほど、システムインテグレーター費用は500万円ほどかかることも。多額な費用が発生するので、補助金の活用も検討しましょう。自治体独自の補助金もあるので、一度相談してみてください。
溶接ロボットの性能・スペックは、メーカーや機種によって異なっています。どのような機能を備え、それがどう作動するのか把握してから導入を検討してください。実際の溶接ロボットの動作は展示会に参加することで確認できます。ロボットの展示会では見学するだけでなく製品にふれたり、担当者から詳しい情報を聞けるのもメリットです。
溶接する製品を固定するために用いられる治具は、溶接ロボット用もあります。特に、溶接ロボット用に関しては特定のガイドに従う必要があり、溶接トーチの操作や溶接の位置などを案内しなければならないため、治具は欠かせないものとなっています。溶接ロボット用に治具を導入することで複数のメリットを得られます。
製造業や建設業などさまざまな場面で行われている溶接作業には多くの危険性が伴います。そのため作業する際には溶接のリスクを理解し、安全対策へと細心の注意を払わなければなりません。万一トラブルが起これば火傷や火災の危険性があるほか、人体にさまざまな異常を引き起こすおそれもあります。溶接作業に必要な安全対策をきちんと確認しておきましょう。
溶接の歴史を振り返ると、より深い知識が得られ、さらには今後の発展に役立つ情報が見つかるかもしれません。特に、初めは手作業だけで行われていた溶接が、どのように自動化されていったのか、その背景と今後の課題について解説します。時代とともに変化する溶接作業について、「手溶接」「半自動溶接」「自動溶接」の流れを追ってみました。
人件費の削減や生産性アップを図るため溶接ロボットの導入してくても、なかなか予算が取れないケースもあるのではないでしょうか。そんな場合には溶接ロボットをレンタルするという方法もあります。レンタルすることで溶接ロボットを購入する場合とはまた違ったメリットを得ることができます。レンタルとリースの違いと併せて解説します。
溶接ロボットを安全かつ効率的に使用するためにはメンテナンスが欠かせず、また、そもそも産業用ロボットの点検が法律で義務付けられているため定期的に行わなければなりません。溶接ロボットにはどんなメンテナンスが必要か、その種類と周期、内容や費用についても説明します。メンテナンスへの知識を深めることで溶接ロボットのトラブルを未然に防げます。
品質に優れた製品をつくるためには、溶接ロボットによって適切な溶接を行わなければなりません。そこで重要になってくるのが、溶接ロボットの精度管理です。ワーク固定治具や制御装置で管理を行い、溶接ロボットの精度を保つことがとても大切です。溶接ロボットの精度を管理する方法や機能をきちんと把握しておきましょう。